ボーカルというパートの特殊性
先ほどバンドにおいてプレイヤーは優劣がないと言いましたが、ボーカルだけはやや例外かもしれません。
それはボーカルというパートが極めて特殊なパートであり、これほどセンスを必要とするものも珍しいからです。
バンドにおけるボーカルとは、そのバンドのいわば「顔」であり「華」といえるでしょう。
多くの観客は、よほどの楽器をかじっている人か、マニアでない限り、個々のパートを選択的には聞きません。
曲のメインメロディ、ボーカルの歌を聞きにくるのです。
そういう意味では、バンドの楽曲はボーカルのためにあるといっても過言では有りません。
もちろん個々のパートが目立つことも大切ですが、うまくてかっこいいバンドほど、ボーカルの邪魔はせず、引き立て方を知っている、ということを覚えておきましょう。
ボーカルはただ歌を歌うだけではない
ボーカルというと、歌が上手ければよい、と考える人も多くいます。
しかし、その「歌が上手い」というのが非常に難しいところです。
他の楽器にはない特殊性として、ボーカルは自分の喉を楽器とします。
これが何を意味するか。
人間、毎日同じ声の日はありません。
日々の変化を感じつつ、一定の声を求められます。
他の楽器は鍛錬を積めばいつかはプロレベルまで上達します。
しかし、歌に関しては、いかにそのコツを掴めるかがものを言うでしょう。
また、カラオケなどで歌が上手いと評される人が、バンドを組むとまったく歌えない、ということがよくあります。
カラオケは曲のテンポを変えられますし、音が大きければ下げて、自分の声を乗らせることができます。
しかし、バンド演奏では、ベースとなるレベルの音がそもそも大きいため、ある程度の声量が求められます。
そして、曲をとおして、この部分でこういう歌い方をし、ここはこのくらいで切って、とメロディのトリートメントをすること、これが音楽的に見たボーカルの一番の仕事なのです。
リズムに乗せて音程を正確に、一定の声量で歌うのはベースラインでしかありません。
その上での肉付けと、不可思議でないオリジナリティを創造するところが難しいのです。
パフォーマンス、見てくれも大事
そして、もう一つの大きな仕事として、バンドの中でしっかりとMC(曲中の喋り)やアクションで客を沸かせたり、かっこよく見せる演技力が必要です。
主にマイクを持って歌うのはボーカルです。
出てきて、歌を歌って、歌が終わったら帰れるようになるのは、よほどの大御所でしょう。
演奏中、楽器プレイヤーが客に満足にアピールをすることは難しいと言われています。
一番身軽で動け、そして言葉をマイクで伝えられるボーカルこそが、ライブをコーディネイトしていく、大きなひとつの立役者となるのです。
それゆえに、ボーカルにはルックスというある種差別的とも言える概念も必要となることがあります。
しかし、顔が良くないとボーカルになれないか、といえば、そうでもありません。
顔が今ひとつであったとしても、ライブの進行や歌唱力、天性の声質など、圧倒的な技術で魅力を放つ人々はたくさんいます。
これはステージ上でやってみないとわかりません。
普段ぱっとしない、地味である、といったステージの下のことはあまり影響しません。
案外意外な人がボーカルに向いているものです。